寄稿

The Matrix

以下はnode002氏による投稿です。

はじめにこのテキストを読んだとき、私たちの置かれている状況を理解するための基本的なアイデアとして優れていると思い、日本語にしようと考え、著者にメールで許可を打診し、そして「翻訳は全然構わない、私のページで掲載してもいい」という返事をもらった。そこで、翻訳が完了してから再度メールしてみたところ、今度は残念ながら返事は届かなかった。しかし、私はこのテキストで主張されている「情報アナーキー」を支持する者として、著者に翻訳とサイト掲載の了解を得ていたことと、本文がクリエイティブ・コモンズライセンスの下で書かれ、すでに複数のサイトで公開されていることを前提に、ここにポストすることにした。なお、このテキストは、「マトリックスからどう脱出するか(How to Exit the Matrix)」というタイトルを持つ全部で7章からなる文書(テキストでは、『HOWTO』と呼ばれている)の冒頭部分(1)であり、文書全体の前提となる考え方を記述したものになっている。以下、他のテキストをタイトルだけあげておく。興味のある方は、公開されているウエブを紹介しておくので、直接アクセスしてほしい。

2. Network Attributes of your computer
3. Local Programs and Services
4. Web relalted leakage
5. Intrusive Surveilance
6. Anonymous Comunications
7. Physical Interaction

http://www.infoanarchy.org/en/How_to_Exit_the_Matrix

翻訳が終わった後に、Ace Evaderというペンネームを持っていることが分かった著者に感謝したい。なお、本テクストは私の草稿にnodej001氏の大幅な加筆修正が加えられたものである。氏による協力がなければ誰の目にも止まらず、コンピュータの中で死んでいただろう。氏の尽力にも同様に感謝したい。

本テキストは、原文の指示に従い、「クリエーティブコモンズ 表示・継承2.5」に基づいて公開されるものである。

node002

5/16, 2014

 

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The Matrix

[モーフィアス] なぜ君がここにいるのか伝えたい。それは、君が何かを知っているからだ。知ってることを君は説明できないが、だが感じている。人生でずっと感じていたはずだ。世界の何かがおかしい、と。それが何かは分からないが、確かに存在する。それは、ちょうどこころに突き刺さった棘のように君を悩ませる。その感覚が君を私にもとに連れてきたのだ。私が何を話しているか分かるか?

[ネオ] マトリックスのことか?

[モーフィアス] マトリックスが何かを知りたいか?

ネオはうなづく

[モーフィアス] いたるところにマトリックスに存在するし、いつでも我々を包囲している。この部屋の中にいる時でさえも。君はマトリックスを、部屋の窓からも、テレビをつけても見ているし、仕事をする時でも、教会に出かける時でも、税金を払う時でも感じているはずだ。それは君に真実を見させないように、君の眼を覆ってきた世界なのだ。

[ネオ] 真実とは?

[モーフィアス] それは君が奴隷だということだ。すべての人間と同じように、君は、匂いもせず、味わうことも、触れることもできない牢獄と拘束の世界に生まれたのだ。それは、君のこころを閉じ込めるための牢獄だ。

 

1 マトリックスとは何か?

私の意見では、映画マトリックスは、私たちの社会でなぜ組織された邪悪と圧制が許容されているかを理解するために、私たちが持ちえた一番の暗喩である。だから私はこの映画を使って説明しようと思う。もちろん私の解釈は可能な解釈の一つに過ぎないが、妥当性があると考えているし、何より私が伝えたいと思っていることを明らかにできると思う。

では、マトリックスは何ではないかを議論することから始めよう。マトリックスは身体的な世界ではない。私の考えでは、身体的な世界は文字通りリアルな世界であり、かつそれは徹頭徹尾物理法則によって支配されている。逆に、みんながイメージしてるのとは違ってマトリックスはインターネットでもない。マトリックスは両方の世界に広がり、かつ超越している。それは文明が始まった時から存在していたし、それが崩壊するまで続くだろう。

では、マトリックスとは何か? それは複雑なものだ。映画ではそうであるように、マトリックスの大きさや射程範囲をマトリックスが何であるかをまだ悟っていない人に伝えるのはほとんど不可能である。しかし、映画とは違って、私はそれを伝えることは倫理的な義務だと信じている。その防衛のためには戦うことも辞さないほどマトリックスに完全に従属しているような人びとに対してさえ伝えたいと思う。最悪の場合、彼らは理解も信じもせず、彼らの世界にとどまり続けるだろう。ある意味で、私はサイファーが、モーフィアスがやったことを恨むのは当然だったと思う。というのは、モーフィアスは、人びとを解放するために、マトリックスのペテンと欺瞞を剥ぎ取るたたかいに従事していたからだ。

マトリックスとは人びとをその意志に従属させ、意のままにする社会的基盤に他ならない。それは、その存在と影響力を、どんな人間の要求からも独立して永続化させようとする社会機械である。それは、欺瞞によって私たちを互いに、そして私たち自身からも孤立させ、私たちを経済的、政治的権力の推進エンジン(パワー)に作りかえてしまう。このパワーに頼るマシーンとはさまざま機構である:巨大企業、政府、学校、宗教団体、さらに非営利団体(NGO)がそうだ。どのような機構も、その活動のある地点で、もはや人びとの要求に応えるのではなく、自己保存と永続性とを自己目的化し、最優先するようになる。この時点でこれらの機構はマトリックスのマシーンになる。たとえば政府がマシーンに転化すると、人びとに仕えることを止め、逆に人びとを支配しようともくろむ。企業は品質のいい製品を製造することや、公共の利益に奉仕することより、株主の利益拡大を優先するようになる。学校は生徒を目的としてではなく手段としてみるようになり、宗教団体はそのメンバーであることと救済を同一視するようになる(さらには、他の教義や独立した宗教活動にも積極的に反対するようになる)。そして非営利団体や慈善団体は、もともとの目的よりも募金活動に予算を費やすようになる。こうしてすべての大規模な機構は、最終的にはマシーンにならざるをえない。 人間にとって大きすぎる存在になってしまうのだ。

私たちの給料の大半を支払っているこうした独立の自己存続的なマシーンに加え、マトリックスは、主要な協力体として、より邪悪なグループを抱えているが、それらはマトリックスにパワーを供給し、かつマトリックスの構造そのものに貢献している。このグループとは、軍-産複合体、政治-産業複合体、監獄-産業複合体、監視-産業複合体、メディア-産業複合体、教育-産業複合体、農業-産業複合体、医療-産業複合体、そして主要な宗教組織(実際の宗教それ自身と混同しないように。多くの宗教組織は、彼らが体現していると主張するその宗教の原理を捨て去っている)。これらのグループのすべてのマシーンは、積極的に人間を抑圧するか、あるいは抑圧を永続化させるために作動している。マトリックスの唾棄すべき性質のいくつかは、これらのマシーンの結合された作用の結果である。

2 マトリックスへの抵抗

抵抗とは、ある精神状態を意味する。マトリックスは、マトリックスがあなたに告げることをあなたが簡単に受け入れるように設計されているし、嘘から真実を区別することは難しい。 マトリックスに抵抗するには、その動作原理および見せかけの現実を理解し、それらを拒否し、他の人びとが同じことをできるように助けることが必要である。

マトリックスはファシストであり、欺瞞であり、そして官僚主義である。 マトリックスとは本質的に、機構による個人の支配であり、その内部では、個人の権利は機構の権利に従属させられている。 個人は、大企業がその利益を保護するため、政策や法律を決定する権利があると信じなければならないようにされている(あるいは、少なくともこのアイデアに積極的に反対しないように)。 人びとは、これらの法が正義と道徳そのものであり、道理にかなったものだと信じなければならない。 もしくは、個人レベルではこれらの法の影響を受けないと感じなければならないし、受け入れることで与えられる報酬に満足しなければならない。与えられた仕事をし、税金を払い、給料に満足しなければならないのだ(少なくとも給料と安定がもたらすものが、マトリックスから脱出するリスクよりもましだと思わせられる程度には)。これらの信仰を拒否することが、マトリックスに抵抗する最初のステップである。

さらに、人々を創造的なプロセスからも切り離さなければならない。巨大な機構の中にあっても、独立した個人として何かを産み出すことができることを忘れさせなければならないし、必要な物を供給してくれるこのシステムに完全に依存しているように感じさせる必要がある。コンピュータを仕事にしている人間が、自分自身を解放しようとするためには、あるいは少なくともマトリックスが何であるかを知るためには、たいていの場合、このマトリックスの「掟」を犯すことを通じてである。コンピュータとインターネットは、マトリックスがその大部分を創りだしたにも関わらず、人間にグローバルな規模で個人的な創造を可能にする。独立したメディア、自己出版、フリーのオープンソースソフトウェア、コンピュータミュージック、コンピュータアートとグラフィックス、等々。 またコンピュータは、独立した人びとの間でコミュニケーションや、マトリックスの外部で人間に奉仕する社会構造を築き上げることを可能にする。

しかし、コンピュータはこのことを達成する唯一の方法ではないということ、そして歴史において今回が始めての脱出の試みではないということを知っておいてほしい。たとえば1960年代、多くの人びとが一緒にマトリックスから抜け出し、サイケデリックドラッグを触媒としながら、独自のアート、カルチャー、音楽を作り出した。 残念ながら、これらの運動は多くの理由で崩壊したが、そのなかで主な理由は、運動それ自身が、性急で、熟慮を欠いた、持続困難な方法を取っていたことと、その後、機構と法から反撃を受けたためである。しかし、奇跡的にこの運動の核となるアイデアは生き残り、それが増殖拡散したことによって、たとえば私自身が目覚め、この文章を書くことが可能となった。60年代と比べると、現代の触媒は、インターネットと再びサイケデリックスとを組み合わせたもののように見える。これらの二つの現象はいずれも、プログラムされた現実と、マトリックスによる見せかけの現実から自分自身を切り離し、認識を自分自身のものにする方法を提供してくれる。

自らを存続させるためにマトリックスは支配を必要としているが、「民主的な社会」では、企業が所有するマスメディアとテレビで人びとの現実認識をフィルタリングすることによって支配が維持されている。本質的にいえば、マトリックスには「思想支配」という形態が必要なのだが、SF的な意味でではない。そうではなく、それは「偽造合意」によってじゅうぶんに効果的な思想支配の手法を獲得している。民衆の大部分はマトリックスが提供するものを受け入れ、「買い込む」必要がある。 彼らはニュースメディアが、世界の正確な姿を提供していると信じなければならない。そして大なり小なり、彼らは実際にそう信じるのだ。民衆が世界について知っていることは、すべてマトリックスのフィルターを通過したものだ。マトリックスが彼らに提供するシンボルとイメージは、現実よりもより現実的なものになる。かくて、あの忌まわしいトンデモのリアリティTVが人気を博するのだ。

注意してほしいのは、確かに幾つかのメディアが統治と支配についての政治的アジェンダを積極的に推進しているが、全体としてこのプロセスが機能しているの は(マトリックスの他のプロセスも)いわわゆる「大陰謀」によるものではないということである。それは、マスメディアの組織のされ方によるのだ。マスメ ディアとは、利潤最大化をはかるマシーンであり、いちばん儲かるニュース(そして制作にかかるコストがいちばん安上がりなニュース)とは、企業と政府から出される反復可能な短いメッセージや、あらかじめパッケージ化されたプレスリリースを使い回ししたものである。それにとどまらずニュースメディアは、その収益を維持するため、権威や政府の政策やスポンサーの利益を脅かすようないかなる意見を持つことをも民衆には許さない。これらの組織はマトリックスの統治と支配にいつでも直接に関与している。かくのごとくメディアは現状維持を果たさなければならない。従って、No news is good newsというわけだ。

メディアのこのバイアスを理解することは、それがかけているフィルターを無効にするためのキーとなる。だれが広告主で、だれがスポンサーなのかを考えてみよう。「調査報道」を装ったプレスリリースに注意しよう。可能ならば、たとえば IndyMedia、Wikinews, GNN, Politech, Free Speech TV, Democracy Now, Free Speech Radio News, FAIRなどの独立メディアからの情報によって、メインストリームの伝えるものが正確かどうか確認してみよう。これら独立メディアは、営利企業であるニュースメディアでは言及されることはないが、だが私たちにとっては目が覚めるようニュースをカバーしていることが多い。

最後に、だが忘れてはならないのは、マトリックスは(支配維持をはかるための誤った試みである)、その構成メンバーをいついかなる時でも把握しようとすることだ。マトリックスは、あなたのプライバシーのすべてを差し出すことを要求する。マトリックスから自らを解き放つためには、このマトリックス最後の所有領域を突き破ることを通してである。すなわち、マトリックスの支配から脱した経済、コミュニケーション、文化を創りだすことだ。

もちろん抵抗の究極の形は、政府と制度に対する依存と忠誠をすべて断ち切ることである。マトリックスの権力構造から身を引きはがし、そしてあなたの経済的な産出物を抵抗経済側に投じ、支援すること。これは、マトリックスからのもっとも暴力的な弾圧を招く抵抗形態である。なぜなら、人にこの経済的力を与えるのは人間の始原的で、主要な機能に他ならないからだ。

残念ながら多くの人にとってこの抵抗形態は、家族や社会的紐帯ゆえに達成不可能にみえる。とりわけマトリックスの規模と射程範囲を理解することからスタートした場合には。しかし映画とは違って、即座にではなく少しずつ自らを解放することは可能であるし、幾つかの場合には、「一斉に」という試みよりも簡単なことが分かるだろう。
それは接続の切断から始まる。テレビを生活から完全に締め出すこと、とりわけテレビニュースとリアリティーTVを。すべての必要な情報やエンターテイメントをウェブから、あるいは本当の現実から(また、たまにみる映画から)得ることができるようになるだろう。可能なら、チェーン店(とくに食料の)を避けるべ きだ。スモールビジネス(とりわけ持続可能な)をサポートすることは、起業家的で独立的なビジネス精神を励ますことになる。また負債を抱えないことが(とりわけ株式ぬきの負債、自動車ローンのように株式を急速に減らす負債)決定的に重要である。というのも負債は、あなたが従順であることを確保するためにマ トリックスが用いる主要なメカニズムであるからだ。さらに、もしあなたが給料で働く労働者であるなら、労働時間を週に 40時間、さらに35時間にとどめることによって、マシーンや、勤勉な奴隷であるようにというアメリカ企業社会の同調圧力から自由になるための大きな一歩となるだろう。またそうすることで、あなたの内部にある精神的エネルギーを解き放ち、それを抵抗に生かすことができる。

この地点から、限定された抵抗(短期間マトリックスから離脱できるものであるが、買い物のやり方、ビジネス上の取引、アンダーグラウンドとのコミュニケー ションなどには十分な時間である)を始めるのは、コンピュータに通じた個人であれば手の及ぶ範囲にある。そして消費者として活動することは、匿名経済が持続可能となるために十分な支えとなるだろう。さらに付け加えておけば、この抵抗が発見される可能性を低下させることができる。それをどう効果的におこなうかが、この「HOWTO」の主題である。

あなたが進歩するにつれ、複数のアイデンティティ、あるいはペンネーム(仮名)を使い分けていることに気がつくだろう。これらのアイデンティティをできる限り切り離しておくことがベストである。それぞれ、お互いに知り合っていたり、同じ話題に言及したり、同じものを購入したりしないようにするべきだし、何よりもあなたの身体的アイデンティティからは切り離しておくことが必要である。アイデンティティごとに別の財布、バッグ、ユーザーアカウントを、可能ならコンピュータも別にしたほうがいい。要するに、狂気、自己破壊、反社会的行動なしに、『ファイトクラブ』のタイラー・ダーデンを作りださなければならないということだ。もしくは、もし狂気や自己破壊が抵抗に役立つなら、それもありだろう。

達人や起業家精神を持つ人間にとっては、ここから完全な自由へのステップはさほど困難なものではないだろう。次の段階は、あなた自身がビジネスを始めることだ。それは必ずしも匿名のビジネスである必要はないが、匿名ビジネスを立ち上げた人間は、マトリックスを直接転覆するための活動に従事していることに、また人びとに対するマトリックスの支配を弱体化する手助けをしていることに満足感を得ることができるだろう。

3 マトリックスの転覆

マトリックスに対する抵抗は精神的反抗であるが、マトリックスを転覆することは社会革命である。それは、マトリックスの支配の外に存在する人間のコミュニティーのタイプを理解することを要求する。また、何がこれらのコミュニティーを支えているか、さらに、それらがどのように直接的あるいは間接的にマトリックスの構造と支配を弱体化しているかも理解する必要がある。これらのことをいったん理解すれば、あなたはマトリックスの支配を弱体化するこれらのコミュニティーと手を携えることができるようになる。

3.1 贈与文化

贈与文化(あるいはフリーカルチャー、贈与経済としても知られる)とは、あなたのポジションが、どれくらい与えることができるかということで決まる社会構造である。贈与経済は、他の経済システムと排他的ではなく、資本主義、共産主義、社会主義経済の上にも存在している。

贈与文化は、現代で、人類のもっとも驚異的な達成を可能にしている。科学研究コミュニティー、World Wide Web、オープンソース運動のすべて、脆弱性とセキュリティの研究、ウィキペディアなどをその達成として上げることができるが、これらはほんの一例に過ぎない。贈与経済は、贈り主の在庫を減らすことなく与えることができるデジタル世界でもっともよく機能する傾向がある。

「バーニングマンプロジェクト」は贈与文化を身体世界に取り戻そうとする壮大な実験であり、かつ成功をおさめている。3,5000人以上の人びとが毎年、砂漠の真ん中にあるブラックロックシティに、お互いに出来る限りのものを与え合うために集まっている。このイベントは部分的に、エネルギーが無限となり、人類が衛星間旅行ができるくらいになる時代のモデルとして提供されている。当然、「The Man」を燃やすのはこのイベントのクライマックスだ。

これらは小さい偶然ではない。贈与文化はマトリックスの主要なメカニズムを打ち砕く。マトリックスは、人間の創造的努力をみずからの支配維持のための経済的産出に変換することで存続している。一方、贈与文化は人間の創造的努力をそれを受け取りたい人間のために解放するのだ。アイテムが売られるのではなく与えられるとき、所有を通じて獲得されるを権力と支配は消失する。それだけでなく、ソースコードが完全に自由に利用できるオープンソースソフトウエアの場合、マトリックスが決して進んでは作らないコードをも作り出すことを可能にしている。これらのコードは、「HOWTO」の目的にとって活用できるものとなる。

興味深いのは、マトリックスのマシーン自体、贈与文化に惹きつけられるということだ。とりわけオープンソース運動に対してそうである。オープンソースは多くの企業、政府をも、それによって製品とインフラを作り上げることが可能なコモンリファレンスのプラットフォームに接続可能にすることで彼らに利益を与えている。企業は、このプラットフォーム構築に協力することで、自社でプラットフォームを構築するコストを格段に減らすことができるし、必然的に同じことをおこなう一社に支払うよりも安くできる。経験を結合でき、専門知識を広く拡散できること、そしてさまざまなタスクを実行するためのプラッフォームを修正する場合の柔軟性は、誰にとってもより優れたシステムを生み出せるし、また安価だ。コピーが自由なデジタルワールドでは、早晩資本主義は贈与文化に敗北するだろう。

だが残念ながら、いくつかの企業、例えばAmazonのような企業は、オープンソースソフトウェアからの多大な利益を引き出しているにも関わらず、社会には貢献しないという方針をとっている。この問題のほかの症例をあげれば、たとえばマイクロソフトはセキュリティーを研究するコミュニティーと戦争状態にあるし、大学教授たちは彼らの仕事についてオープンソースリファレンスの提供を拒否するという傾向がある。「HOWTO」では、この傾向を逆転するためのメカニズムを議論しているし、これらの議論は次のカルチャーセグメントに私たちが入っていく導きとなるだろう。

3.2 情報アナーキー

贈与文化と深く関連している社会構造は、情報アナーキーである。この概念の背後にあるアイデアは、「すべての情報は可能な限り広く自由に拡散されるべきだ」というものである。この文化倫理は、知的財産という概念と激しく対立するものでり、情報の自由な交換を妨げる法やコードを拒絶するものだ。

マトリックスのマシーンが、このイデオロギーに決して友好的ではないのは言うまでもない。マトリックスに間接的に揺さぶりをかける贈与文化とは異なって、情報アナーキーは、人間のアイデアは所有できるとするマトリックスの観念に正面から挑戦するものである。十年このかた情報の自由の度合いは、マトリックス側の過酷な攻撃によってかってないほど下落したようにみえる。マトリックスのマシーンは現在、アイデアやデジタルコンテンツから驚異的なパワーを引き出している。最近の例をあげれば、「デジタルミレニアム著作権法 (DMCA) 、著作権保護期間の延長、著作権違反の厳罰化、そしてこれらの副産物としての、特定の情報技術にたいする犯罪化などである。言論の自由と革新技術にたいする法的対応がこれほど暗いことはかってなかっただろう。

しかし、希望が失われたわけではない。未来は暗いが、それはまさに情報アナーキーが、権力に寄生しているマシーンの主要なパワー供給源に対する深刻な脅威となっているからに他ならない。あるレベルでは、マトリックスは自からの権力基盤が脆弱なものであることを知っている。それゆえに、機会あるごとに知的財産の保護は創造性を推進することだ、とあなたに呼びかけてくるのだ。
彼らはこのアイデアを促進するため、ポスターやカレンダーを使った笑うべきプロパガンダを用意し、さらには子供たちを洗脳しようとさえしているのだ。(これを作っている国家対敵諜報局(the National Conterinteligence Excutive)はアメリカ政府の正式な部局であり、政府の主要なプロパガンダ機関だ。彼らが作ったものは、とにかく爆笑物なので、古典になるまえに印刷しておくようにすすめたい)

これらナンセンスな試みすべては明らかにインチキである。社会は、コミュニケーションやアイデアがすべての人びとに開かれているときに最も成功しているのだ。だが、マトリックスの支配層が、アイデアや創造的表現を容易に経済的権力に変換できることを悟って以来、世界がいつもこのように動いてきたわけではないことを忘れないでおこう。逆に言えば、経済システムは、マシーンの所有者たちよりも、創造する人間にとってより有益な形に適応させられるし、またそうなるだろう。

「HOWTO」の5つの章は、あなたのデジタルなアイデンティティを保護するために書かれている。同時にその内容は、情報アナーキーの目標に向けて容易に適用できるものであ、また代替的な収入モデルあるいは贈与文化をめざす場合の経済的インセンティブにもなるだろう。いかなる場合でも、マトリックスが作り出した知的財産のシステムをサポートしてはならない。マトリックスの権力が衰えるにつれ、コンテンツの製作者は他の手段を通じて対価を求めるようになるが、それだけマトリックスは弱体化し、無関係になっていく。ガンは飢え、そして死滅する。

3.3 インターネット匿名経済

近年における市民的自由の侵食は、日常的な経済取引を、参加者に紐付けられている恒久的で、識別可能な情報なしに実行することが著しく困難になってきているという事実から主に生まれている。インターネット取引の出現とその増大に伴い、身の回り品、書籍、ソフトウェア、さらには薬剤の購入も、個人のアイデンティティーに取り消し不可能なかたちで関連づけられている。たとえばAmazonでは、顧客の嗜好・習慣を読みこんだデータベースを構築しており、この情報の多くは公けに利用可能となっている。

このような状況への自然な反応として人びとは、インターネット取引において現金または現金に裏付けされた個人認証が不要な支払い方法で匿名でいられるようなオプションを選ぶようになり、結果として現実取引に近づいている。これがインターネット匿名経済である。

マトリックスも同様に、この経済システムを構築するため、大規模な経済的インセンティブを提供している。最近、FBIが、毎年30,000通以上の 「国家安全保障書簡」を送ってていることが明らかになった。考えても見よう、彼らにとって、特定の本を選好する人物や、猥褻な出版物を注文した人物全員の記録を要求することがいかに容易かを。Amazonはすでに、マーケティングのために消費者の関心の分類を行っているが、そのエンジンは即座にこの分類を行うことができるのだ。あなたがどのように本を読みたいのかについて、彼らはどんなことを言うだろうか?Googleはどうか、また検索サイトやgmail経由で広告を呈示するアドワーズタイプのサイトでは? Googleを筆頭に多くの検索エンジンは、他の多くのデータと一緒に、誰がどんなキーワードで検索したかのログを無期限に保存している。これらのデータは、「国家安全保障書簡」、あるいは政府の召喚状のための主なターゲットなのだ。

私は「FIXME」のセクションで、コストを抑えながらどう匿名取引を行うかの基本を提案している。これらの技術を使うことで、あなたは心配することなく匿名でマトリックス内で取引できるだろう。やがて、起業家精神を持った人たちが現れ、この新しい経済の中でいくらかのお金を作るためにビジネスをスタートしたいと思い、さらにはマトリックスの支配から完全に逃れる道を歩き始めるだろう。

関心を呼ぶマーケットには、オンラインゲーム内のアイテム、匿名のウェブホスティング、特定タイプの薬品、あるいは違法な電子機器などが入ってくるかも知れない。たとえば、多くの人びとにとってMythTV BOXを使うのは面倒であるが、個人的には、不具合があり、広告に汚染されているTiVoのサービスより、MythTVのほうを確実に選ぶ。

これら例にあげたもののほとんどは、今日市場に出ている。だが、どれくら持ちこたえられるだろうか? 消費者が、今日の厳しい法的対応の下で、高いリスクを払ってまでこれらの商品を購入する理由はどこにあるだろう? では、自分を守るためにはもう少し払ってもよいという人たちはどうだろうか? たとえばある消費者たちは、ただストレートに、マーケティングの手法とか政府のプロファイリングから自由であるための能力に惹かれるだろう。ある特定のタイプの書籍(たとえば発禁書など)を購入する人たちも、Amazonなどと違い、書籍と自分のアイデンティティとを結びつける情報を持っていないところを選ぶだろう。

まだ未開拓なマーケットとして、何かを一方的に送りつけてくる者から住所を隠しておくために、つまりマーケティングスパムを生成するデータベースに登録されるのを避けるために、または一般的にプロファイリングと監視そのものを避けるために、あるいはまた普通は自分のロケーションには配達されないような商品を注文するために、「匿名リメイルサービス」がありえるだろう。このシステムは基本的に、一時的な口座番号とユニークな偽名を作成するウェブサイトを介して動く。パッケージ(荷物)は、まず口座番号と偽名が読み取られる中継点に送られる。そこでパッケージ上に新しいラベルが貼られる。そこからラベル上の新しい目的地に郵送され、その後、すべての電子と紙のデータが破棄される。またこのビジネスモデルには利点がある。たとえば、セキュリティに関してパラノイア的にこだわるユーザーが複数の場所を連結した場合には、お互いに必ずしも市場シェア奪いあう必要はなく、逆に協力できるからだ。責任を回避するために、たとえば「Virtual Officeソリューション」としてこれを販売するようなことを検証してもいいかも知れない。パッケージが、途中で開封/点検されていないことを確認するための技術として、2つ以上のろうそくを使ってユニークなマルチカラーのワックスシールの渦巻きを作成し、その蝋印を撮影して暗号化された電子メールで送信することが考えられる。配達と支払は、通常のUPS /フェデックス/ USPSの追跡番号を使うことでも大丈夫。送信者の公開鍵は暗号化した上で破棄できるからだ。

このようなシステムにたいする需要は、今すぐには見えないだろうが、次の「愛国者法(Patriot Act)または同様の法律が郵便の匿名性をすべて剥奪するとなると、需要が急拡大するに違いない。このビジネスは極めて低コストで始められることや、市場テストのためでも、低資本で小さくスタートすることができる利点がある。一度このビジネスに価値があることが証明されたら、フェデックスやおそらく他の主要キャリアは、これらの事業者に規模の経済の論理で通常より低いレートを提示してくるだろう。これを利用すれば、経費は低下し、顧客はより安価にサービスを受けられることになる。

このアイデアをさらに進めると、「ゴーストウォーカー(Ghost Walker)」のマーケットを生み出すだろう。これはちょうど、「FIXME」で議論されている「個人デジタル経済」に似たようなものだ。そこで展開されているP2Pについてのナンセンスはほとんど無視していいのだが、提案者のキーとなるアイデアはebayのようなオークションサイトに転換可能である。このアイデアの基本はこうだ。様々な理由で自分のアイデンティティにリンクされたくない取引(繰り返せば、書籍、ビタミン、薬品、地域限定商品、ウェブホスティング、違法な電子機器などの購入)を行いたい時に、レーダー(探知網)から身を隠すことに熟達した人物(ゴーストウォーカー)と契約するのだ。この人たちは、ちょうど私立探偵を逆にしたようなものであり、依頼者のために何でもやる。運送業者、代理人、郵便配達人として、たとえば商品を購入したり、郵送したり、荷物を配達したり、チャリティーに寄付したりする。この活動はすでに、たとえば「Craigslist」のようにコミュニティーや地方都市の広告サーバー上でゲリラ的に運営されている(違った州からでも簡単に契約できる)。理想をいえば、それ専用のウェブサイトが作成されることだろう。このシステムを利用する「ゴーストウォーカー」は、それぞれ偽名を使い(できればサイトのサポートとモーフィングを阻止するために支払いも偽名を使うほうがいい)、これまでの評価とレビュー、仕事とリスクに応じた価格などを呈示をしておく。契約は、まず依頼者側がしてほしい仕事を一般的に示したポストをし、それに興味をもったゴーストウォーカーが価格を呈示して依頼者とコンタクトすることで始まる。次に購入者は、契約について完全な詳細を明らかにするために特定のゴーストウォーカーを選び、支払い条件を呈示する。全面監視化の傾向が強まっている状況下では、多くの普通の人たちがこのサービスを使うことに興味を示すだろうと思う。

というわけで、潜在的には大きな利益をもたらすだろう膨大な数のマーケットがあり、それは同時に、統治と支配とは無縁な社会構造を構築するのを後押しすることになる。一般的に、国家支配のメカニズムはさまざまな装置や構成品の市場を創りだすが、それは支配を回避するために使うこともできる。だから、さまざまな機会を見逃さないようにしよう。もしあなたが何か提案やアイデアがあるなら、すべての人の利益のために「HOWTO」をアップデートできるようにぜひ私に連絡してほしい。

4 自由を求める人間はテロリストではない

「HOWTO」は本質的に、国家や機関のルールからの独立を主張するハッカーコミュニティに向けられたものだ。このドキュメントで紹介されているアイデアや技術の多くは他のどこかでも見つけることができるだろう。しかし、首尾一貫した形でアイデアが収集され、ひとつの目的のために編集されたのは今回がはじめてだと思う。17年前、私たちは「独立宣言」を作成した。それに含まれる条文は、サイバースペースにおける憲法的なルールを表現したものだ。この「宣言」で要求されている私たちの基本的権利は、テクノロジーを使うことを通じて行使される。

私たちに対する告発が行われるのは避けられないだろうから、ここで自由を求める人間とテロリストの違いを強調しておきたいと思う。「HOWTO」で議論されている抵抗と革命のタイプとは、非暴力であり、プライバシーと匿名性を通して本当の自由を個人に認めることに焦点を当てたものである。
反動的な人たちは、「HOWTO」で提示する知識が実際のテロリストを支援することになる可能性があると主張するかも知れない。だが実際には、テロリストと見なされている人たちは、すでに実践的に効果があることが証明されたより進んだトレーニングを確立しているのだ。さらに言えば、ここで話しているのは目的のためには喜んで生命を捧げる人たちのことである。彼らの家族、友人、そして彼ら自身の人生は、すでに「帝国」によって破壊されている。彼らを止めることはできない。正規のアイデンテティーが容易に手に入る時に、彼らにとってこの「HOWTO」は役にたたない。さらに彼らは監視にさほど注意を払わない。というのは、いかなる監視システムも自爆攻撃を阻止することなどできないからだ。さらに悪いことには、警察国家もこのことをよく理解しているのだ。少し注意を払えばすべての証拠が、警察国家が9.11の悲劇を利用して、特定のテロリストネットワークよりも一般の市民をターゲットにできるような立法を伴う(彼らがずっと待ち望んできた)全面的な権力掌握の言い訳にしたことを示している。

最近私はUsenetの議論に参加したのだが、そこでは「自分を守り、マトリックスから脱出する行動を取れば、(国家に)圧政的な立法と政策を導入するための口実を与えてしまうだろう」と主張されていた。私はそうはならないと思う。それどころか、この考え方は敗北主義であり、幾つかの理由で、危険でさえある。

第一に、マトリックスはこの抵抗運動と公然とたたかうことはしないだろうし、また出来ないということである。というのは、人びとがその衝突に関心を払えばそれだけ抵抗運動にエネルギーと力を与える結果になるからだ。マトリックスのメディアフィルターは、この「HOWTO」の結論に導くような情報が漏れ、その結果、人びとの間で議論されるようなことを許さないだろう。彼らが、ここで主張されいるようなイデオロギーを自ら進んで宣伝するようなことはおよそありえないし、攻撃さえ仕掛けてくるだろう。さらに言えば、彼らには公然とたたかう必要がないのだ。なぜなら、マトリックスはより圧政的な法を通さなくても、児童ポルノとのたたかい、麻薬戦争、対テロ戦争、企業収益の保護という名の下に好きなだけ人びとを弾圧できる材料をすでに持っているからだ。上述したように、彼らはすでに、オーウェル的世界の実現のためにこれらを最大限に活用しつつある。興味深いのは、規制が馬鹿げたものになればなるほど、人びとのマトリックスの裏をかこうとする試みがよりありふれたものになることであり、それはまた抵抗経済を強化するだけの結果となる。

第二に、これまでの歴史すべてを振り返ってみても、民衆に自由が与えられたことはない。もし権力装置をそのままにしておくと、国家はより強大に成長するのみである。その権力を自発的に市民に譲渡することはない。人びとが自分自身の権利を獲得した歴史のどんな事例を考えても、それは国家がそれ以上効果的にたたかうためのリソースを失うことになった長い、長いたたかいの結果だということが分かるだろう。禁酒法は、人びとが勤勉で、行儀よく法律を守るようになったから廃止されたのではない。人びとが酩酊し、アルコールの消費量がかつてないほど上昇し、ピューリタン国家がアルコールに走る中産階級を新たに犯罪化することに力尽きたからである。同様に、市民権運動は勝利しなかったが、それはアフリカンアメリカンが指定された役割に従順にとどまっていたせいでも、「分離すれども平等」の施設を認め、差別に寛容だったからでもない。それは彼らが、不正義に対して市民的不服従と積極的な抵抗運動をおこなったからである。

私は市民的不服従を信じる。そしてより重要なのは、道徳と法を明白に区別すべきだということだ。「私たちがよき者であれば報酬があるだろうし、法律も撤廃されるだろう」という物言いは保身的で、敗北主義的な考えだ。数々の法-DMCA、愛国者法、運転免許証の発行基準に関する連邦法(Real ID Act)、保守派が完全に支配している最近の連邦最高裁判所の判例などはすでに本質的にファシストのものであり、「犯罪」と「テロ」に対してより厳罰化で臨むだろうし、ドル紙幣に浮かぶ監視の眼だけをますます上昇させること以外に成果が期待できないにも関わらず、「安全」の名の下に市民の権利を奪い取ろうとするだろう。

第三に、そして最後に、再度私は暴力を擁護する者ではないことを言っておく。さらに被害者がいるすべての犯罪について擁護しないことも。私は企業国家の権力を衰退させ、それによって彼らのファシスト法やファシスト的抑圧を強化する力を弱体化させることができる「匿名性に基礎を置く社会的、経済的構造」を創りだすことを提唱しているのだ。

私の考えでは、政府がこれらの抑圧を放棄するのは、禁酒法の時と同様に、あまりに多くの人間を犯罪者化した結果、もはや支配が及ばないと悟ることだけだろうと思う。のみならず、彼らのファシスト法は、この国の対外政策が生み出した真の怪物に対して何の防御策にもなっていないことを指摘しておく。

マトリックスが現在のような監視と抑圧を続ければ、個人情報窃盗、データウエアハウスへの侵入反復、地下に潜む膨大な監視網の形成などがますます増加するだろう。「HOWTO」ではこれらの行動を推奨しているわけではない。しかしマトリックス自身が、既存の個人情報を盗むほうが新しく創りだすより簡単にしたり、あるいは絶え間ない監視から脱出するのを容易にしていく以上、これらは必然的にありふれた現象になるだろう。

その時点で、マトリックスは二つのオプションに直面することになる。私たちに自由を許し、際限のない監視の全面支配から自分を解放したいと願う人びとにシステム内部で匿名で活動するための合法的手段を提供するのか、逆に、市民的自由と基本的人権に対する高くつく弾圧の後、人びとがもうこんな国家システムはこりごりだと集団脱走しはじめるまで市民に対する戦争を仕掛けるのか。

しかし私たちは、マトリックスがどちらを選択するか知っている。すでに私たちは、人びとの「感情」を呼び出す引き金となり、論理や理性的判断を圧倒するように特別にデザインされたプロパガンダの連鎖反応や、メディアによるスピーチの抜粋加工(sound-byte)などの前駆的な装置を目撃している。この感情とは、人びとを単純で明白な真実を見えなくさせるためにマトリックスが使うものだ。その真実とは、私たちは自由になるだろうし、国家はそれを止める何ものも持っていないということである。

5 言葉を広めること

当初私は、「レーダーの下に潜み続ける」ために、このテキストをほんの少数の人たちだけに配布しようと計画していた。しかし、これまで書いてきた理由で、これが間違ったアプローチだと気がついた。混合ネットワークでは、より多くの人びとが自分とアイデンティティーを守るために活動すればするほど、最後にはよい結果をもたらす。相互支援の経済が力強く成長していけばいくほど、抵抗もより自立的に機能するようになっていく。

IRCチャットの友達が、社会的行事とか抗議活動とか様々な場所で配布できるかっこいいFIXMEの名刺をデザインしてくれたことがある。オンラインプリントショップでは
200-500枚の名刺をだいたい20ドルで印刷してくれるだろう。もしあなたが何らかの理由でいくらか私に寄付したいということであれば、そのお金を私の代わりに直接こういうところに投じることもできる。数量スライド制にも対応している。
名刺に限らず、たとえば、ステッカー用の紙を地元のオフィス用品店で5ドルで手に入れ、スティッカーをプリントし、コーヒーショップやクラブ、バー、インターネットカフェ、書店などや、その他知的な人たちが素早くメモしたり、URLを訪問したりできるどんな場所にでも貼つけることができる。もし誰かデザインしたいなら、私まで送ってくれたらここに公開してもいい。

6 誰をターゲットにするか

この文書は「パワーユーザー」と呼ばれる人たちを対象に書かれている。パワーユーザーというのは自分の経験を最大限に生かすために、コンピュータの設定をいじくりまわすことが好きなタイプの人たちのことだ。初心者にとっては、設定をいじったり、コンフィグファイルを編集したり、コマンドラインの操作などはおっくうだろうし、ここで提供される情報については、使っているOSに関わらず、残念ながら多くの部分で格闘するはめになるだろう(が少なくとも、ある人が、技術的部分でも初心者がついてこれるように説明するのを手助けしようと申し出てくれているのはこころ強い。上手くいくかどうかは分からないが)。

この文書では、OSについてできるだけ偏見を持たず、Windows、Mac OS, およびLinuxについての情報を提供するようしたい。しかし、オープンでカスタマイズ性の高いLinux向けの情報がおそらく一番活用され、発展していくだろう。

この文書と情報ができるだけ多様な人たちに役立つことを期待している。その中でも、対象となる人たちの主なカテゴリーを示しておこう。

6.1 市民的自由主義者

個人の自由が少しづつ侵食されていることに危機意識を持っている人たちは、この文書のほとんどすべてが面白く、有用であることが分かると思う。というのも、これは「麻薬、ポルノ、テロに対する戦争」によって奪われたすべての権利を回復するための対抗手段を提供することを目的としているからだ。現在では誰でも(アメリカ政府であれ、ばかげた訴訟関係者であれ、私立探偵であれ)、多数の令状なしで、ただ召喚状または国家安全保障書簡だけで、あなたの家の中にあるものすべてのものを捜索することができる。漠然とだが、憲法起草者たちの頭にあったのは、まさにこのような状況なのではなかったかと思う。この文書は、あなたの個人的な所有物や読書傾向などをほんとに個人的なレベルにとどめ、無数の商業データベースに取り込まれないように手助けすることができるだろう。(前にも述べたが、これらのデータベースは、法執行機関によっていつでも利用可能になっている)

6.2 内部告発者

職場における不正行為、腐敗、隠蔽、陰謀を暴露することに関心を持っている内部告発者は、プレスに接触したり、あるいはインターネット上で証拠を拡散する場合に、自分のアイデンティティを守る必要があるが、そのためにこの文書が役立つことが分かると思う。不正行為を暴露するために仕事(さらには人生をも)を賭けている場合、あなたを黙らせようとしている人物あるいは組織から、どんな機関もあなたのアイデンティティを保護することはできないだろう。唯一のオプションは、身の安全が保障される時まで、誰にもあなたのことを知らせないことだ。注意深く、入念にこのテキストを読んでもらえれば、内部告発の目的をどう達成するかの方法を伝えられると思う。

6.3 ブロガーと独立ジャーナリスト

内部告発者と同様に、ブロガーとフォーラム投稿者も、嫌がらせのターゲットになりえる。特に、論争を呼ぶ議題に関わった場合や、あなたのページにコメントを付ける人間がそうしようと決めた場合に起る。最近は、ブロガーがジャーナリストと同様の権利や保護を認められる判決が出ているが、職場の腐敗や怠慢を暴露しているケースでは、自分を守るために追加的な方法が必要だろう。場合によっては、馬鹿げた訴訟の面倒を避けるために(それに訴訟コスト!)偽名で公開することが望ましいこともある。

6.4 “反体制派” と 探求者

中国はさておいても、アメリカでも、現状に異を唱える人びとにFBIが執拗に嫌がらせを続けていることは公然の秘密である。対象となっているグループは、菜食主義者、カトリック、クエーカー、平和活動家、環境ボランティア、第三党の候補者や選挙運動従事者、独立のジャーナリストやブロガーであるが、さらにメインストリームのメディアのメンバーも含まれている。平均的市民がもっとも憂慮すべきなのは、Amazonで「悪い本」を買ったり、推薦したり、ブログに「悪いこと」を書いたり、クレジットカードで特定の食品を買ったり、特定のチャリティーに寄付したりすると、間違えてこれら「トラブルメーカー」の人間にされてしまうということである。攻撃的なデータマイニングの出現と集積によって誰でも簡単に「悪意ある群衆」としてラベリングされてしまう。この文書を適切にフォローしていけば、異論や情報を調べる自由を確保し、電子的な足跡を残さずに公然と嫌がらせに立ち向かうための方法を見つけることができるだろう。それはまた、執念深いFBI捜査官(あるいは執念深い元配偶者や私立探偵を雇うその他の敵)があなたに対して与えるダメージを最小限に抑えることについても、当然ながら役に立つはずだ。

6.5 敵を持つ人びと

上で示唆したように、関心を払うべきなのは、反体制派だけではない。監視と厳格な法律は誰に対してでも危険な凶器となりうるのだ。私立探偵を雇ってデータウエアハウスにアクセスし、あなたの生活を調べ、何か使えそうなものを見つけると、そのことで電話してきたり、あるいは直接脅迫してきたりするあなたの「敵」が生み出される。執念深い元配偶者がいたり、政治的敵対者や、あるいは確執のある隣人がいたりするどんな人でもこのいやがらせのターゲットになりうる。

6.6 プログラマーとセキュリティー研究者

デジタルミレニアム著作権法(DMCA)と、驚くほどズタズタにされた特許法で、言論の自由が著しく制限されていることにプラグラマーたちは気づくことになった。また、セキュリティ研究者の多くも、著作権保護テクノロジーが扱う個人情報の領域が実はスパイウエアの類いであることを議論するのを避けるようになっている。また、著作権法に抵触するかも知れないからという理由で、暗号システムの脆弱性評価について公開することを避ける人たちもいる。もっと言えば、ソフトウエア一般を議論すること自体を恐れる風潮が出てきている。この文書は、プログラマーや研究者たちにアイデンティティーの隠しかたや、そうすることで言論の自由や技術革新を尊重するような法体系のもとで活動している仲間の援助の仕方を伝えることができると思う。

6.7 アンダーグラウンドのビデオゲーム

デジタルミレニアム著作権法は、ビデオゲームハッカーやチーターに嫌がらせをする
ことにも使われている。ゲーム会社の幾つかは、あなたが「チートフォーラム」に参加していたり、購読していたりするのを発見した場合、オンラインサービスから締め出そうとするだろう。大部分のゲーム会社は、アメリカで運営されているチートサイトに対して、著作権法による偽の「閉鎖命令」を出すことに躊躇しないだろう。オンラインゲームに追加機能、チート、自動化を付加するためのソフトウエアもDMCAの嫌がらせ対象となる。それにとどまらず、オープンソースのゲームサーバーを再実装するリバースエンジニアも訴訟のターゲットとなっていることを気づくだろう。この文書は、これらの人たちが迫害を恐れることなくゲームをプレイし、満足いくように改造し続けられるよう支援する。

6.8 ムーンライター、ダブルシフター、コンサルタント

同様に、複数の仕事を掛け持ちしている人たちは、雇い主からの報復を恐れてこのことを隠しておきたいと思うだろう。私としては、この文書を活用する典型は、一方でコンサルタントとして働いていたり、自分の自由な時間をオープンソースプロジェクトに貢献したいと考えているプログラマーたちだと考えているし、期待している。

6.9 身分窃盗の潜在的犠牲者(誰でも)

この文書はまた、オンラインや他の場所での商取引で、アイデンティティーや資産情報を盗まれることから身を守ることに関心がある人たちを手助けすることにも向けられている。先に述べたように、Choisepointのようなデータウエアハウスは、(個人の)アイデンティティを商品にしている。だからアイデンティティーの漏洩や盗難が幾度となく繰り替えされるのは避けられない。社会の中で、アイデンティティがますます不可欠な統合機能の一つとなるにつれ、このデータを売買する闇市場は大きな儲けを生み続けていくだろう。ちょうど統治と支配の政治を通して戦われた麻薬戦争や対テロ戦争が、浪費、破壊、カオスをエスカレートさせていったように。自身の身を守るための最善の方法は、デジタルな足跡を最小限にとどめることだ:オンラインでの匿名の支払方法を使い、実名と郵送先住所を秘密にすること。

6.10 起業家

この文書が役立つ可能性がある人びとの最後の主なカテゴリは、プライバシーと匿名性のサービスおよびソフトウェアを他の人たちに提供することに関心がある人びとである。プライバシーと匿名性は難しいやっかいな問題である。解決されるべき多くの課題があり、ユーザビリティの問題があり、さらに市場が創られる必要がある。このグループに属する人たちにとって、すべてのプライバシーの問題と法的規制は、参入すべき潜在的市場となる。しかし「断じて、いかがわしいものを売ってはいけない」。もしあなたが法的な、あるいは他の圧力に勝てそうにないと判断する場合は、この事実をユーザーにはっきり説明しなければならない(とりわけ、もしあなたがアメリカ内部で活動しているのなら)。そうすることで、ユーザーはサービスを利用するに際して適切な予防策が取れる。ごく一部をのぞいて、プライバシーサービスはスタンドアロンで、一発解決としては動作しない。大部分が、任意に組み合わせられる一連のツールと部品で構成される。だから一つの部品に集中し、上手くやろうではないか。