本稿は、11月4日に連続ツイートしたものをまとめたものである。まとめるにあたって字句および表現を部分的に修正し、一部補足したが、趣旨に変更はない。

 

ある立候補者の活動をその主張に共感する人たちがサポートするのは自然な活動だし、理想的な形だろう。とはいえ現状では、立候補の権利は憲法で保障されているものの、公職選挙法や国会法、政党助成金などは、大部分の立候補者が何らかの政党に所属して立候補することが前提とされている。

そして選挙に際し(衆院選挙を例にとれば)候補者の希望が一定程度は考慮されるとしも、その処遇としてどこの小選挙区に配置するのか、地域単独か、それとも比例に重複立候補させるか、比例単独かは、立候補者ではなく、さまざまファクターを考慮して政党指導部が最終的に決める形が普通になっている。

そうすると、その候補者がいくら特定の小選挙区から出たいと考えていても、党指導部によって一方的に比例単独に決められたり他地域に鞍替えさせられることが起こりうる。

これら政党政治と小選挙区制を前提にすれば、もし党指導部が当該の立候補者の意に反する決定をした場合、候補者にどんな選択肢があるだろうか。

不本意ながら党の決定に従うか、あるいは所属政党を離れ無所属として立候補するかの二択になるだろう。後者を選べばたちまち供託金はもちろん、その他の選挙資金や要員確保の問題にぶつかり、立候補を断念する人も多く出てくるだろう。

衆院選東京8区問題は、政党制を前提にした現在の選挙制度の下で野党共闘が課題になったときに何が問題になるかを浮き彫りにした。立憲から立候補が予定され、何年もかけて活動してきた吉田はるみ氏とその支持者が存在する東京8区に、10月8日、れいわの山本太郎氏が野党統一候補として立候補宣言をした。

これに対し、吉田氏の支持者たち(立憲パートナーズの人たちも含む)が「そんな話は聞いてない。現場を無視した山本氏の立候補は許せない」と反発した。だが山本氏は「吉田氏が降り、自分を野党統一候補として擁立していただくことは、立憲の了解を得ている」と反論し、混乱が生じた。

8区で混乱が広がる中で、立憲枝野代表は「山本氏と調整しているのは聞いているが、できれば立候補は避けてもらいたい」と山本氏を統一候補としたかどうかに答えず、曖昧さが残る発言をし、山本陣営も「今さらちゃぶ台返しですか?」と反発した。

これ以上混乱すれば野党共闘を傷つけ、自公を利するだけと判断した山本陣営は、10月11日に「立候補を取りやめることにした」と宣言し、8区問題は決着がつけられた形になった。さらにそれを受け同地区で立候補を予定していた共産党の上保匡勇氏も降りることを決め、事実上、野党統一候補は吉田氏に確定した。

8区問題には二つの問題があった。一つは立憲内部の意思決定プロセスであり、8月から継続的に山本氏と8区統一候補をめぐり調整してきた立憲都連窓口が最終的に、山本氏を統一候補とし、吉田氏は次期参院選で立候補することで山本氏と合意が成立したのに、枝野氏ら執行部がそれを反故にしたことである。

山本氏は泥仕合を避けるため、録音を含む交渉経過を一切伏せたまま立候補を取りやめたが、その後、立憲執行部が衆院選小選挙区の地割を決めた10月10日付け内部文書がリークされ、そこには東京4区とならんで8区は他党の野党統一候補地区であるため記載から除外されていたことが明らかになった。(この内部文書はジャーナリストの及川健二氏が自身が運営するyoutube番組で公開した)

山本氏との交渉は東京都連がやっていただけで党の選対や執行委員会はそれを預かり知らないという言い訳は、この内部文書で通じなくなった。さらに吉田氏は公表していないが、野党統一候補から外れ、次期参院選に出馬することを認める念書が作成されたと言われている。

つまり山本氏を8区の野党統一候補とすることは10月10日以前に立憲は決めていたのであり、それを信頼した山本氏は立憲執行部によってハシゴを外されたのである。立憲の意思決定は吉田氏には伝えられ、念書も作成されたと見られるが、吉田氏の支持者には当然伝えられていなかった。

第二の問題は、パートナーズを含む立憲支持者の対応である。彼らがあくまで立憲候補者としての吉田氏を支援してきた以上、まずやるべきだったのは、山本氏が「野党統一候補としていきなり割り込んできたこと」をはたして党執行部が承認し、決定したのかを確かめ、事実であればその理不尽さの釈明を求めることであった。

だが、彼らは怒りの矛先を党執行部ではなく、れいわや山本氏に向けたのである。このような党派的な態度がある程度許されるのは、吉田氏に念書の有無や氏の意思を確認した上で、「立憲からの立候補を断念し、無所属として立候補する可能性」を吉田氏と検討する場合だけであろう。

既に述べたように、現在の政党制の下では、立候補の自由は(無所属で出ない限り)政党の公認という条件が付けられている。したがって、もし所属政党が野党統一候補の選定をめぐって理不尽な方針を出すような場合には、立候補希望者も支持者も、その党の内部で争わざるをえない。

従って、今回山本氏の野党統一候補としての出馬に対して立憲支持者がとった行動は、ただ山本氏の立候補の自由を侵害するのみならず、立憲内部の問題をれいわ問題に転化し、結果として一時的にせよ、野党共闘のあるべき姿に損傷を与えるものであったと言わざるを得ない。

さらに、もし支持者が問題が立憲内部の問題ととらえていたにもかかわらず、立憲執行部に対する抗議を意識的に控えたとすれば、こと東京8区に関する限り、そもそも野党共闘は眼中にはなかったことになるだろう。

もし第三の問題があるとすれば、今回、当事者である吉田はるみ氏の声がほとんど聞こえてこなかったことである。もちろん既に述べたようにいわば一方的に党指導部が立候補者を選定、公認し、地区割りを決める現状では、吉田氏に渦中での発言や説明、さらに党指導部への抗議を求めるのは酷であり、無理を強いることになるだろう。しかし、立憲の候補者として野党共闘の旗を掲げている以上、山本氏が最終的に断念したことに対し、少なくともその直後に同じ立候補者として感謝とレスペクトを声明すべきではなかったかと思う。実際には、断念後に山本氏が吉田氏を自身の選挙演説の場に招き、その場ではじめて吉田氏は謝意を表明したである。

 

11.7.2021